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手術実績

ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術

2012年から健康保険が適用となった最新技術

高齢化社会を迎え、70歳、80歳でもより積極的ながん治療を受けるケースが増えています。その分、体に優しい治療法が求められるようになり、がん治療においても患者さんの負担を軽減できる低侵襲治療が普及してきました。

前立腺がんの根治的手術である前立腺全摘除術においても、代表的な低侵襲治療である腹腔鏡手術が始まり、当科でも日本で最初に前立腺がんの腹腔鏡手術を手がけた教授の下で多くの手術を行ってきました。腹腔鏡手術は、腹部に数カ所の小さな創(数センチ)を開け、そこから内視鏡や鉗子(かんし)、電気メスなどの手術器具を入れて、行う手術法です。おなかを大きく切る開腹手術と比べて術中の出血が少なく、術後の回復が早いと言われています。当科では2002年から腹腔鏡下前立腺全摘除術を開始し、これまでに約700例の手術を実施してきました。腎臓や副腎などのさまざまな病気に対しても、1000例近い腹腔鏡下手術を行ってきました。

さらにくわしく

泌尿器科の分野では、主に腎臓や副腎に対して比較的早い段階から腹腔鏡手術が導入されていました。一方で、腹腔鏡手術による前立腺全摘除術では、前立腺を摘出した後に行う膀胱尿道吻合(ふんごう:膀胱と尿道をつなげること)が難しく、普及を妨げる大きな要因となっていました。

そして、このような難しい技術を補うものとして開発された最新技術が、手術支援ロボット“ダヴィンチ”です。ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術(RALP)は、日本では2008年に始まり、2012年からは健康保険が使えるようになりました。

三次元の拡大された視野で繊細な作業が可能に

ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術では、下腹部に直径数センチ程度の穴を数カ所開けて、その穴から体の中に入れた内視鏡や手術器具を用いて前立腺を切除、摘出します。手術の基本的なやり方は腹腔鏡手術と同じで、それをロボットの支援によって行います。ロボットという名は付いていますが、手術を行うのはあくまでも医師であり、ロボットは医師(執刀医)の器具の操作や3次元内視鏡による視野を補うものとして用いられます。

術者は手術台から少し離れたところにあるコンソールボックスと呼ばれる場所から、遠隔操作で手術器具を動かします。コントソールボックス内にはモニタが設置されていて、体内を三次元で捉えることができます。通常の二次元の腹腔鏡手術ではつかみにくい、立体感が得られ、かつ拡大されて把握できるので、繊細で緻密な手術が可能になります。

以下に開腹手術と腹腔鏡手術、ロボット支援下手術の特徴を挙げます。

前立腺がんの手術の特徴と代表的な利点・欠点

術式 方法 利点 欠点
開放手術(開腹手術) 下腹部を大きく切開し、直接、目で観察しながら行う手術法。 手術時間が短い。おなかを膨らませること(気腹)による合併症(皮下気腫、炭酸ガス塞栓など)がない。 傷が大きい。前立腺は骨盤の奥深くにあるため、直接は見えにくいため、出血が多くなりやすい。
腹腔鏡手術 下腹部に開けた1センチ程度の穴に内視鏡や鉗子、メスなどを入れ、腹腔内を写したモニタを見ながら行う手術法。 傷が小さく、術後の回復が早い。出血が少ない。 手術時間が長くなる可能性がある。気腹による合併症のリスクがある。
ロボット支援手術 手術支援ロボットを用いた腹腔鏡手術。 腹腔鏡手術よりもさらに繊細な手技が可能。術後尿失禁や勃起不全の回復が期待できる。手術時間が腹腔鏡手術よりも短縮される可能性がある。 気腹による合併症のリスクがある。術中の器械トラブルで腹腔鏡手術などに移行する可能性がある。

ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術の対象

  • がんが前立腺に限局していると考えられる場合
  • 75歳以下

※基本的には、手術の適応となる患者さんは、開放手術や腹腔鏡手術の場合と同じですが、緑内障や頭蓋内血管病変、高度の呼吸障害を患っている例、前立腺肥大症の術後、高度の前立腺肥大症、腹部手術既往がある例では、本手術を行えないことがありますので、詳しくは担当医にご相談ください。

手術の流れ

一般的なロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術の流れを紹介します。手術時間は条件によっても異なりますが、およそ3〜5時間程度です。器械の不具合などによっては、手術法を腹腔鏡手術や開放手術に切り替える可能性もあります。

  1. 全身麻酔をかけます。
  2. 下腹部に径5mm〜12mmのトロッカーと呼ばれる筒を5〜6本挿入します。
  3. 4本のトロッカーをロボットアームに固定します。
  4. トロッカーから、内視鏡や鉗子などの手術器具を挿入します。
  5. 前立腺と精嚢を切除し、周囲のリンパ節を摘出します。
  6. 膀胱と尿道を吻合します。
  7. 切除した前立腺、精のうを袋に入れ、内視鏡を挿入した穴から取り出します。
  8. 術後は尿道カテーテルとドレーン(浸出液などを体外に流す排液チューブ)を腹部に留置します。

入院の流れ(術前から術後まで)

入院期間は順調に経過した場合、7〜10日間前後になります。

手術前

  1. 手術の前日に麻酔科の医師と病棟担当医の診察があります。
  2. 手術前日の夕食後より禁食となります。下剤と経口補水液の内服をしていただきます。
  3. 当日朝には浣腸を行い、直腸に便の残りがないようにします。
  4. 下肢静脈血栓予防のストッキングを着用し、術衣に着替えた後に、担当看護師、ご家族と手術室に向かいます。

手術後

  1. 術当日はベッド上安静で、飲食は禁止です。
  2. 術翌朝から水分摂取が可能です。食事は昼食から再開します。歩行も可能ですが、初回歩行の際は看護師などの付き添いが必要です。
  3. 術後3〜7日目(術中所見により医師が判断)に膀胱造影を行います。尿道と膀胱の吻合部に問題がなければ、尿道カテーテルや腹部のドレーンを抜きます。※吻合部の状態によっては尿道カテーテルを留置したまま退院する場合もあります。

合併症

主な合併症は次の通りです。

一般的には合併症の発生率は、開放手術や腹腔鏡手術より低いとされています。まれに重篤な合併症が起こることがありますが、その場合には安全を第一に考え、開放手術などに切り替えることがあります。

術後では下記に挙げたもののほか、手術中に生じた血栓が術後に肺動脈をつまらせる肺梗塞(エコノミークラス症候群)や手術中に用いた炭酸ガスが皮下組織に溜まる皮下気腫、手術中の体位などの影響で下肢に痛みや腫れが生じる下肢コンパートメント症候群などが起こる可能性もあります。

術中合併症

1.出血
開放手術と比較して出血量は少なく、輸血が必要になるリスクは5%未満です。 当科ではこれまで輸血したケースはありません。
2.直腸などの損傷
前立腺は直腸と接しています。炎症などで直腸と前立腺が癒着(ゆちゃく:くっついていること)している場合、手術操作により直腸を損傷させてしまうことがあります。ほとんどは術中に修復が可能ですが、開放手術への切り替えや一時的に人工肛門の造設が必要になることもあります。また、器具などを入れた際に腸管を傷つけることもあります。

術後合併症

1.尿失禁
前立腺の先端は外尿道括約筋の中に埋もれているため、前立腺を切除すると少なからず括約筋の損傷が起こります。前立腺はそれ自体にも尿禁制を保つはたらきがあるため、前立腺を摘出すると多くの場合術後に尿失禁が生じます。
尿失禁の程度は個人差がありますが、時間が経過するにつれて回復します。また、ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術は、通常の腹腔鏡手術より尿禁制の回復が早いといわれています。
2.勃起障害
前立腺は勃起に関係する神経網に包まれています。がんが前立腺の被膜に接している可能性が高い場合は、この神経網も切除するため勃起障害が生じます。ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術はがんが前立腺内に限局しているケースが対象なので、勃起に関係する神経を温存することも可能です。ただその場合も術後しばらくは勃起不全となります。

費用について

2012年4月より手術支援ロボット「da Vinci」を使用した手術のうち、前立腺がんの全摘出手術が保険適用になりました。

手術・入院費に保険が適用され、患者さんのご負担が3割の場合はおおよそ420,000円の見込みです。但し、高額療養制度を利用していただいた場合、所得に応じ最終的なご負担額は以下の通りとなります。

  • 70歳未満の方 約92,000円〜180,000円
  • 70歳以上の方 約44,400円〜92,000円

※上記費用に部屋代は含まれていません

現在、前立腺がんの全摘手術以外のロボット支援手術の健康保険適用は認められていません。

東海大学泌尿器科のロボット支援腹腔鏡下手術の体制

ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術を安全に行うため、ロボットを操作する医師には20時間以上のトレーニングが義務づけられています。加えて、執刀医の補助にあたる医師、看護師、医療技工士がひとつのチームとして、手術支援ロボットの特性を学び、操作方法などを習得することも義務づけられています。

当院でのロボット手術は、腎臓や副腎あるいは前立腺の腹腔鏡手術を十分に経験し、腹腔鏡技術認定を取得した医師が、ロボット手術を行うための所定の研修を行い、ライセンスを取得しています。手術適応と詳細な手術方法については教授以下、医局員全員参加のカンファレンスにて検討しています。

また、十分なトレーニングを積んだ医師、看護師、臨床工学士、麻酔科によるロボット手術専門のチームを結成し、ロボット手術に特有な術中、術後管理を安全に行える体制を取っています。毎回の手術の後には、このチーム内でのカンファレンスを行い、よかったこと、反省すべきことを話し合い、常に最善の治療を提供できるよう努力しています。

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