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乳幼児の場合についてまず、説明します。精巣(睾丸)は胎児の時から陰嚢にあるわけではなく、最初は腎臓の近くににあり、胎生期3ヶ月頃に下降を開始し、7〜8ヶ月頃に鼠経管を通過し8〜9ヶ月頃に陰嚢内に到達します。体内の高温では精子が死んでしまうため、このような事が起きるわけです。このとき、精巣が体内から陰嚢に抜ける部分を鼠径管と言います。
精巣が下降する過程
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精巣がまだおなかの中にあります。 |
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精巣はおりてくるときに、腹膜の鞘を伴っておりてきます。この腹膜の鞘を腹膜鞘状突起といいます。 |
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精巣は精管と血管が束になった精索、腹膜鞘状突起とともに鼠径管を通り陰嚢内に下降していきます。 |
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精巣と一緒に降りてきた腹膜鞘状突起は腹膜と分離して睾丸固有漿膜と呼ばれるものになります。 |
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腹膜鞘状突起はほとんど無くなくなり、精巣は睾丸固有漿膜に包まれて陰嚢内に落ち着きます。 |
鼠径ヘルニアとは腹膜鞘状突起が大きく残ってしまい、そこにお腹の中から腸が入り込んでいくことで起こります。
では、成長した大人の場合はどうして起きるのでしょう。先天的な異常がなくても、年をとって鼠径部の筋膜が衰えてくると鼠径管の入り口が緩んできます。その緩んだところに腹膜が入り込み、次第に袋状のものができ、そこに腸などが入り込むことで鼠径ヘルニアが起こります。
また、鼠径部にある筋肉や筋膜組織が、重いものを持ったり、強くいきんだりする事が多いことで弱く、薄くなってしまう事があります。すると、腹膜鞘状突起が無くても、腸などがその弱いところから、鼠径管に落ち込んでいくことがあります。これも鼠径ヘルニアといい、厳密には内鼠径ヘルニアと言います。そして、前者を外鼠径ヘルニアと呼びます。
ところで、鼠径ヘルニアは男性だけに起こるのでしょううか? そうではありません。女性の場合は睾丸の通り道はありませんが、鼠径管があって、そこに子宮を支える靱帯が通っています。男性と同様、そこの筋膜が緩むと鼠径ヘルニアが起こりやすくなるのです。 |
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