2019年4月よりロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術+体腔内尿路変更術を行います。
ロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術とは?
当院では、膀胱がんの中でも難治性上皮内がん、筋層浸潤がんに対して開放膀胱全摘除術及び腹腔鏡下膀胱全摘除術を行ってきました。今まで当院で行ってきたロボット支援前立腺全摘術やロボット支援腎部分切除術でロボット支援手術の安全性、低侵襲性を基に、さらなる患者様のQOL向上を目指してロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術は導入されました。開放手術に比べて傷は圧倒的に小さく、出血量も少ないことが実証されています。また、腹腔鏡手術と比べても手術時間の短縮がみられます。その他、男性の場合、男性機能の温存の可能性も高いことが報告されています。膀胱全摘除術には尿路変更を伴いますが、当院でのロボット支援手術では体腔内で尿路変更を行います。体腔内で行うことにより傷が小さくて済み、術後の回復も早いと考えられます。しかし、開腹手術の既往があり、お腹の中が高度に癒着されると予想される方には不向きで、こうした方には開放手術が適応されることもあります。また、周術期合併症の低下が報告されていますが、ロボット支援手術特有の合併症等もあり全く合併症が起こらないとは限りません。時として、他の術式と同様に致命傷となる場合もあります。
実際の手術手順
- 麻酔は全身麻酔にて行います。
- 体位は仰臥位から頭を30°程度低くした状態で行います。
- 下腹部に下図のように8oから12mmの穴を6か所開けます。開けた穴からロボットアームを含めた手術機器を挿入します。
- 膀胱を摘出します。また、膀胱周囲のリンパ節を摘出します。
- 膀胱を摘出する際に、男性の場合は前立腺と精嚢腺も摘出します。女性の場合は、子宮や膣の一部も同時に摘出します。尿道合併切除する場合は、男性は会陰(陰嚢と肛門の間)の皮膚を切開します。女性の場合は陰部の皮膚を切開し、尿道と膣の一部を切除します。
- カメラを挿入した穴を拡げて袋に入れた膀胱を取り出します。女性の場合、膣から取り出すこともあります。
- 膀胱を摘出した後は、尿路変更をします。尿路変更には様々な方法があります。
詳しくは別紙にて説明します。腔内で原則行いますが、必要に応じて腔外で行います。
- 手術終了時には、腹部にドレーンと言われる浸出液などを体の外に出すための管を挿入します。
尿路変更とは?
膀胱は腎臓で作られた尿を貯めておく袋のような臓器です。膀胱を摘出すると尿を貯める部分がなくなります。そこで、新しい尿の通り道を作る必要があります。この新しく尿の通り道を作ることを尿路変更といいます。現在、行われている尿路変更は大きく分けて尿管皮膚瘻、回腸導管、自然排尿型代用膀胱の3つの方法があります。それぞれの方法には利点と欠点があります。術式の適応や体の状態などによって選択します。一般的に腸管に制限がない場合、回腸導管が最も安定して術後管理が安全な尿路変更です。尿管皮膚瘻は腸管の使用に制限がある場合、短時間に手術を終えたいときに選択されます。代用膀胱は比較的若く、長時間の手術に耐えうる全身状態、術後管理の忍容性、上皮内癌や膀胱頸部に近くない膀胱癌の場合に限られます。
- 尿管皮膚瘻
腸管を用いないため腸管の切開・縫合が不要で腸管に関連する合併症が少ないこと、手術時間が短くてすむことが長所です。尿管を直接おなかの皮膚に縫い合わせます。尿を貯めることができないため、尿は絶えず尿管を縫い合わせた穴から流出します。尿を貯めるための袋(パウチ)をお腹に装着することで尿を集めます。この方法の短所は、尿の出る皮膚の穴が狭くなり尿が出にくい場合にはカテーテルと呼ばれるチューブを留置することになることです。永久に留置が必要になり定期的な交換が必要になることもあります。また、尿の排出口が狭いまま長期間過ごすと、腎臓の機能低下をみることがあります。尿管皮膚瘻造設には約2時間要します。
- 回腸導管
腹部に袋をはって尿を集めるという方法は尿管皮膚瘻と同じですが、回腸という腸の一部を使って尿管と皮膚のあいだの橋渡しをします。これにより、尿の出口が狭くなるという尿管皮膚瘻の短所は改善されます。一方で腸管の切開・縫合を必要とするため、術後の腸閉塞や腹膜炎などの腸管に関連する合併症の危険が発生します。また、手術時間も少し長くなります。腸管の蠕動により尿が体外に出るのが促進されるため、長期的な腎機能維持という点ではすぐれています。回腸導管造設には約2〜3時間を要します。
- 代用膀胱
腸管を使って、膀胱の変わりになる新しい袋を作り体内で残した尿道につなぎます。その袋に尿管をつなぎます。お腹に集尿のための袋をはらないでよいという点では、見た目は手術前とあまり変わらないのが長所です。しかし、本来の膀胱と腸で作った袋では異なることも多々あります。これまでと同じように尿意を感じて排尿することができません。下腹部に張りを感じることで尿がたまったことを認知し、お腹に力をいれることによって尿を排出します。尿がうまく出せない場合もあり、その場合は自己導尿といって自分で尿道から細い管を入れて、尿を出すことになります。この導尿を1日のうち数回は必要になります。尿失禁を伴うこともあり、失禁パッドが必要になることがあります。また、夜間2〜3回排尿のため起きないと尿があふれてもれることがあります。回腸導管と同じように腸管に関連する合併症の危険を伴い、手術時間は最も長くなります。代用膀胱造設には約4時間要します。
合併症
- 出血
ロボット支援手術とはいえ、ある程度の出血が予想されます。輸血が必要な確率は低いと考えますが、必要に応じて輸血を行う場合があります。したがって、手術の前に輸血の同意書の取得を行います。
- 多臓器損傷
手術操作により、膀胱周囲の腸管、血管を損傷する可能性があります。大きな損傷が起きた場合、開腹手術に移行することがあります。
- 術後腸閉塞
手術操作や麻酔の影響で、術後に腸管の動きが低下することがあります。状態によっては、絶食や腸管の除圧などの処置を行います。術後早期に離床し体を動かすことが予防につながります。
- 腸管縫合不全
尿路変更で腸管を利用した場合、腸管の吻合を行います。この吻合部がうまくつかない場合を縫合不全といい、腹膜炎を起こし開腹による再手術が必要になる場合があります。まれな合併症ですが、起こった場合には、致命的になることもあります。
- 術後感染症
術後に傷口の感染や肺炎などをおこし、発熱が続いたりすることがあります。このような場合には、抗生剤投与など適切に対処します。傷口が感染にて開いてしまったときには、皮膚の縫い直しをします。傷口が大きい場合や、腸管が外に出ている場合などは再度、麻酔下に縫合が必要なこともあります。
- 肺塞栓症
別名エコノミークラス症候群などと呼ばれていて、すべての手術におこる可能性があります。手術中後の長期臥床にともない、足の血液の流れが滞り下肢の深部の静脈に血栓(血のかたまり)が出来て、その血栓が肺の血管につまった場合におこります。まれな合併症ですが、起こった場合には、致命的になることもあります。予防策として、抗凝固剤の投与、弾性ストッキングの装着、手術中に下肢を断続的に加圧するバックの装着を行っています。
- 男性性機能障害
膀胱と前立腺の両側を勃起の為の神経が走っています。神経血管束を温存することはできますが、膀胱と前立腺を切除するため、術後は勃起をするのは難しくなります。